こんにちは、スズケーです。
2019年1月18日、「バジュランギおじさんと小さな迷子」というインド映画が日本公開となりました。
インド人の青年が、
インドで迷子になってしまった声を出せないパキスタン人の小さな女の子を
家まで送り届けるお話です。
歴史、宗教、経済など様々な面で対立するインドとパキスタンですが
そういった対立を越えての善意の行動、人々の交流を描いた作品です。
私は同じ「インドとパキスタンの、宗教や国境を越えた人の交流」を描いた作品ならば
「FILMISTAAN」という映画が大好きです。
スーパースターも出ないし、華やかで派手なミュージカルシーンもなし。
とっても地味な作品ですが良作です。日本では未公開。
バジュランギおじさんフィーバーに乗じて、
「FILMISTAAN」も見る人増えないかなぁと思うので、紹介しておきます。
「FILMISTAAN」
FILMISTAAN
- 製作国:インド
- 制作:2012年(初公開2014年)
- 上映時間:117分
- 監督 : Nitin Kakkar
- 脚本: Nitin Kakkar
- 出演 :
Sharib Hashmi、Inaamulhaq、Kumud Mishra 、
Gopal Dutt Kavita、Thapliyal - あらすじ:
ムンバイに住むサニーは熱狂的なボリウッド映画ファン。アシスタントディレクターとして働きながら、映画出演を夢見てオーディションを受け続けるも落ちてばかり。ある日アメリカのドキュメンタリーの撮影隊のスタッフとして、パキスタンの国境に近いラジャスタンの砂漠地方に出向いたところ、外国人を誘拐しようとしていたテロリストに、間違えて誘拐されてしまう。
パキスタンの農村で拘束される事になったサニーだが、その村にはインド映画の海賊版VCDの販売をしているアフターブという男が。
映画と言う共通の娯楽を通じて、インド人のサニーと、パキスタン人のアフターブや村人の交流が始まるが…
「FILMISTAAN」あらすじ(ネタバレ)
ムンバイに住む熱狂的なボリウッド映画ファンのサニー。
俳優を目指していくつもの映画のオーディションを受けているものの、うまくいかない。
携帯電話のお金を払うお金もなく、友人からADの仕事を紹介してもらう。
仕事の一つとして、ラジャスターンでアメリカ人が撮影するドキュメンタリーにも参加する事に。
順調に撮影が進む中、ある夜、撮影隊は二つの車に別れて移動する事になり、
撮影機材を積んだ車を一人で運転するサニー。
突然何者かに襲われ、そのまま拉致されてしまう。
サニーを連れ去った男達はテロリストで、政府に自分たちの要求をのませるための人質としてアメリカ人の誘拐を計画していたのだが、
ターゲットとして襲った車に乗っていたのは、インド人のサニーだけだったのだ。
そのまま砂漠の中にある村に連れさらわれるサニー。
テロリスト達は村人らを脅し、サニーと共に自分たちを数週間村に滞在させるよう要求する。
大の映画好きのサニーは監禁されても自分が持っていたはずの映画の撮影機材を心配する。
食事をしながらのちょっとした会話の中で、自分が今監禁されている場所がパキスタンである事を知るサニー。
「なんだ、今ようやくわかったのか?」と言うテロリストに
「家も、食事も、人の顔だって全部同じなのに、違う国だとどうやってわかるって言うんだ?」と答えるサニー。
サニーが監禁されている家の長男・アフターブが出稼ぎから帰って来る。
アフターブは映画の海賊版VCDを作成して販売しているのだった。
自分の家に監禁されているのがインド人で、しかも映画の仕事をしていると知って、サニーに興味を持つアフターブ。
「インドとパキスタンは政治の上ではいがみ合ってるかもしれない。
でも、僕らは同じ映画を見ているんだ。」
二人は映画の話で盛り上がる。
ある夜、部屋で寝ているサニーの元に、聞き覚えのある音楽が…
アフターブが屋外で村人のためにインドの映画の上映会を行っているのだ。
思わず笑顔になるサニー。必ず戻るから自分も外に見にいかせてくれとテロリストに頼みこむ。
海賊版VCDでの上映のため、途中でたびたび音声がストップしてしまうハプニングが起きるも、音声が出ない部分をサニーが見事に物真似して声をあてる。
その特技にサニーは拍手喝采をあび、無事上映会は終了した。
サニーに興味を持つ村の子供達。監禁されている部屋の窓に集まってくる。
映画のモノマネをして子供達を喜ばせるサニー。
テロリストをイラつかせ、殴られたりもするが映画を愛する心は忘れない。
人質としてインド人が捕まっている事をインド政府に伝え、テロリストたちの要求をのませるために、サニーの撮影をする事が決まった。
「これがカメラの前での最後の演技かもしれない」と、撮影を了承するサニー。
しかし、テロリストらは誰一人としてビデオカメラの使い方がわからない。
一体どうやって撮影するんだと揉めだす彼らに、思わず口を開くサニー。
「もし許してもらえるなら、僕が撮影しようか?」
人質として捕まっている事を伝える動画撮影を、人質自身の指示で行うと言う、奇妙な撮影が始まった。
いつどんな時でも映画への愛は忘れないサニー。「どんな小さな映画だって、心を込めて撮影しないといけないんだ!」とテロリスト達にも熱く語る。
テロリスト達が戸惑うくらいに”パキスタンでテロリストに捕まったインド人”を熱演するサニー。
十分な映像が撮れたと思われたが、動画を確認したサニーは一言。
「ダメだな。これじゃ伝わらない。」
それからテロリスト達もうんざりするほどの怒濤の撮影が始まった。
テロリストらに銃を持たせて自分を狙わせてみたり、台詞を変えてみたり。
散々のリテイクのあと、テロリストらを仕切っているメフムードという男に要求を伝える台詞を言わせることで、サニーも納得できる「いい映画」を作る事が出来た。
夜のインド映画上映会をきっかけに、徐々に日中も外に行く事も許されるようになるサニー。村の子供達との交流も始まる。
そして、サニーの見張りを任されている若いテロリスト・ジャワードも、
お人好しで人懐っこく、映画バカのサニーによって、少しづつ人らしい表情を取り戻していく…
ある日サニーはジャワードが水浴びをしている最中に、彼のライフルを持ちだして外に出かけてしまう。
銃がなくなっている事に気がつき慌てるジャワード。外を見ると村の子供達に銃を突きつけるサニーの姿が…
実はサニーはライフルを持って子供達にインドの映画スターのモノマネをして見せているだけなのだが、ジャワードやメフムードにはそれがわからない。
サニーはメフムードに腕を撃たれてしまう。
幸いにも弾は腕を貫通。また、ちょうど村に医者がいた事から治療を受ける事も出来た。
医者の老人はインドのアムリトサル出身。1947年のパーテーション(インドパキスタンの分離独立)の時にパキスタン側へやってきたのだった。
自分もアムリトサル出身だと告げ「インドの事を思い出す?」と聞くサニー。
「もちろん。昨日の事のように覚えているよ。
だからわしは、アフターブが見せてくれるインドの映画を楽しみにしているんだ。
インドに行った気持にさせてくれる。故郷の人に会えた気がする。故郷の道を歩いている気がする。映画から故郷の空気を感じる事すらあるのさ。」
「あなたと話していると、自分の祖父と話しているような気持になります。
祖父はラホール出身だった。この世に生まれたからには一度は見るべき場所だといつも話していた。死ぬ前には、いつか一度もう一度行きたいと…」
故郷を思い出して涙を流すサニー。
しばらくしてサニーの傷が癒えた頃。
インドとパキスタンのクリケットの試合が始まった。結果はインドの勝利。
試合の様子をラジオで聞いていた村人達が落胆する中、一人大喜びするサニー。
直前に、インドとパキスタン、どちらのチームが強いかでサニーと口論になっていたメフムードは浮かれるサニーが気に入らない。
怒りに任せてサニーの撮影機材を投げ捨て始める。
慌てて駆け寄り、体を張って撮影機材を守るサニー。
手を離せと言われて殴られ続けても、カメラを抱いて離さない。
必死にカメラを守るサニーの姿に、村人だけでなくジャワードまでもがメフムードを止めに入る。
「神に誓って、お前をここから生きては返さない」と言うメフムード。
しかしサニーは大切なカメラを守り抜いた。
サニーの姿に心を打たれたアフターブ。
「お前を故郷に返してやるよ。俺が連れてってやる」と約束する。
アフターブはジャワードとメフムードに、
「どうせサニーを殺すつもりなら、持ち主がなくなる撮影機材を自分に譲ってほしい。
パキスタンの映画界が、インドに負けない映画を作ってほしい。インドが真似したくなるような映画を。あの機材を使って撮影をしてみたいんだ」と頼む。
村人を大勢巻き込んでの映画撮影が始まった。
撮影が終わったあと、アフターブの家から帰る村人に混じって
ムスリム女性が着るブルカを着用して変装し、家を抜け出すサニー。
実は映画撮影は、サニーを逃がすためのシナリオだったのだ。
アフターブとサニーはバイクにまたがりインドへ向かって砂漠を走るも、逃走が見つかって連れ戻されてしまう。
アフターブに怒りをぶつけるメフムード。
「俺たちを騙したのか!今度だけは許してやるが、次はない。
俺たちが許しても神は許さない。お前のような男がこの国を悪くする元凶だ。
我々は神に帰依し、神の教えを実践している。それを邪魔するのは最大の罪だ!」
「俺を許したらまた彼を逃がす手段を考えるよ。俺は彼を返してやると約束したんだ。
俺のやっている事が罪かどうか、その判断を下すのはアンタではなく神だ。
アンタこそ、自身のことを考えてみろよ!
アンタ達こそ最悪の行為をしてる。それも神の名の下に、国を破壊してる!
銃を持っての戦いは、国を制するかもしれない。
でもそれじゃ人々の心は操れない。
人の心を動かすためには…パキスタンにも心が必要なんだ!
そしてその力を彼は持ってる。
たとえ罪だろうと、俺は彼を助ける。何度でもね!」
逆上してアフターブに暴行を加えるメフムード。
ジャワードが慌ててメフムードからサニーとアフターブを引き離し、部屋に監禁する。
「すまない。約束を果たせなかった」と謝るアフターブ。
「じいさんが言ってたよ。物事が失敗しても、それは神の意志なんだって。
…時々考えるんだ。もし国境がなかったらって。人々は自由に行き交いできる。
医者のおじいさんはアムリトサルに行けるし、僕のじいさんはラホールに行ける。
もしパーテーションがなかったら…」
「殺し合いが始まっていたさ」
「違うよ!よく考えてみろよ。
インドとパキスタンのクリケットヒーロが一堂に集まるんだ。それに敵うものがあるって言うのかい?結婚だって自由だ!有名な歌手達だって、元々はこの、同じ大地の出身なんだぜ?」
村にテロリストのボスが再びやってきた。アメリカ人を捉える計画は失敗したらしい。
アフターブの父親が意を決してテロリストのボスに話しかけた。
「どうか彼を、生きて解放してやってほしい。私の息子の事ではない。サニーの事だ。
彼は純粋ないい子だ。あなた達だって間違えて連れてきてしまっただけなんでしょう?彼を帰してやってほしい!」
テロリストのボスは悩みながらも承諾する。
今後も自分たちの隠れ家として使うため、村人とのいざこざを起こすのを避けたのだ。
自分が解放される事を知って喜ぶサニー。アフターブにもこれまでの礼を言う。
「礼を言うのはこっちだよ。お前のお陰で俺たちは色んな経験をした。
一緒に笑って、喜んで、楽しんで…全部お前のお陰だ。」
「君、映画を撮りたいんだろ?映画の撮影だって、俺を逃がすためだけの計画じゃなかったはずだ。
僕のカメラを…僕の心をここに置いていくよ。君へのギフトだ。
いつかインドの、大スクリーンで君の映画を見れるのを楽しみにしてる!」
泣きながら抱き合う二人。
インド人とパキスタン人。
でもいつしか二人は固い友情で結ばれていたのだ。
ジャワードとメフムードとともに国境へ向かう二人。
突然メフムードが車を停め、二人に銃をむけた。
「言っただろう?お前をここから生きて帰さないと」
メフムードがサニーの頭にむけて銃を突きつけた瞬間、ジャワードがメフムードに銃をむけた。
「アニキ、二人を行かせてやってくれ。彼らは何も悪い事はしてないだろう。」
口論の末、ついにジャワードはメフムードを撃ち殺してしまう。
放心するジャワード。
「…自分がした事が、正しいのか間違っているのかわからない。
お前達は早くここから立ち去ってインドへ向かえ。俺の気が変わらないうちに。」
後を追ってきた他のテロリスト達。
ジャワードは殺され、国境へ向かって走る二人にも銃撃が。
メフムードのものだった銃で応戦するアフターブ。
「ここは俺に任せて、お前は早く国境を越えろ!」
「僕はヒーローだぞ。脇役じゃないんだ。君を残してなんて行けない。」
「いいから行けよ!」
「行くさ、君と一緒にならね!」
意を決して走り出す二人。
インドへの国境にむけて…
「FILMISTAAN」感想
本当に地味で、日本ではほぼ無名の作品ではありますが、
2012年のインドのナショナルフィルムアワードで、最優秀ヒンディー語作品賞を受賞しています。
インド人、そしてパキスタン人が映画をとっても愛していて楽しみにしている様子が素直に伝わる作品です。
「FILM(映画)」+「STAN(国)」で、FILMISTAAN。
タイトルもシンプルだけどわかりやすくて好きです。
宣伝用のトレーラーやスチールはかなーりギャグっぽさを前面に出していて
「B級のコメディ映画かな?」って思ってしまいそうですが、いえいえ違います。
「バジュランギおじさんと小さな迷子」同様、とってもハートフルなお話です。
これ、宣伝のアプローチを変えたらもうちょっとヒットしたんでは?という気も。
でもこの宣伝のお陰で、見始めてからいい意味で大きく裏切られて、大好きな作品の一つになったわけなんですが。
「FILMISTAAN」の中で、インドとパキスタン、両国の人々の心をつなげるきっかけとなる役割を果たしているのがそのボリウッド映画。
能天気で人なつこいサニーは彼の大好きな「映画」というツールで、
インドとパキスタン、人質と拘束する側と言う垣根をいとも簡単に乗り越え、村人と打ち解けてしまいます。
一度打ち解けてしまえば、彼らが本来いがみ合っている異なる国に住む者同士なのだということを見ていて忘れてしまうほどに彼らの交流は自然です。
本当に、宗教とか、国同士のいざこざって、そこに住む人々にはほとんど関係ない事だよねって思わずにはいられません。
作品中では映画だけでなく、言葉、食事、スポーツ(クリケット)など、インドとパキスタン両国が、そしてそこに住む人々が、同じ文化、同じ考えを持っている様が描かれていて、
その「同じ国・人々」が、1947年の印パ分離独立以降、政治的な理由だけでいがみ合う事のおかしさをさりげなく伝えていました。
好きな事・楽しい事・嬉しい事を、二つの国の人々が屈託なく共有しあう様子は、じんわり胸熱。
終盤、サニーとアフターブが別れを惜しんで語り合うシーンは、台詞もとってもぐっと来て、何度見ても泣いてしまいます。
すごくいいなと思ったのは、映画の中で「パキスタン」という単語が使われるのは、
敵対する国としてではなく、必ず「インドと同じ文化を持つもう一つの国」という事がわかるシュチュエーションである事。
インドとパキスタンの違いを強調させるような表現や、パキスタンを一方的な悪として描くシーンは一切ありません。
きっとこれは、この映画を作った人の想いや考えがそのまま反映されているんだろうなと思いました。
基本的には大体同じ。やっぱり元は一つの国だったんだなって私は感じます。
インドとパキスタンの融和を訴えかけるような映画ではありますが、決してシリアスな政治ドラマではなく、思わず笑ってしまうようなコミカルなシーンがいっぱい。
インド映画が好きな人なら、サニーによる古いボリウッド映画のモノマネに思わずニヤッとしてしまうのではないかと。
また、村人達が本当に映画を楽しみにしている様子も微笑ましいです。
個人的には「ああ、昔のインドの映画って、内容はベタでも、本当に人々に夢を与えるエンターテイメントだったな…」って思いました。
もちろん、今もそうであるには違いないんだけど、最近の映画は、ちょっと変わってきてしまっているよね。
私のパキスタン人の友人には、出稼ぎ中のドバイでインド人女性と出会って結婚したけれど、インドとパキスタン、どちらの国もビザがおりず、
第三国で暮らすしかないと思っているという人がいました。
国同士のいざこざは人単位では関係ないことで、
サニーのように「国境がなかったら」と思う人は、インドにもパキスタンにも大勢いるのではないかと思います。
国境がなかったら、国交が正常に回復したら。
旦那をインドの友人達に会わせたいし、インドの家族をフンザに連れてってあげたいです。
最近ではインドのシィク教徒がビザなしでパキスタン側の聖地へ巡礼できるようにしよう!というコンセプトのもと、カルタールプル回廊の建設着手が始まりましたが、
そんな大きな事業でなくてもいいので、
一部の宗教の人だけでなく、映画やクリケットなどもっと両国の多くの人が気軽に参加して楽しみや喜びを分かち合えるようなものを、印パ親善の一環として何か企画してほしい、と思います。
FILMISTAANは、amazonでDVD売ってますので、興味のある方はぜひどうぞ!
おすすめの映画です。
ただ、日本語字幕はないですが…英語字幕はあるみたいです。
ヒンディー映画ですが、パンジャービー語も混じるので注意。
お読みいただきありがとうございました!
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治安、旅行ガイド、両替やATM、フンザへの行き方など、ブログ内のパキスタン旅行や滞在に関する必要情報・便利情報をまとめた目次(サイトマップ)です。
デザイナーとライターをしています。お仕事のご依頼やご相談もお気軽に。
FILMISTAANすごく面白かったです!
私もバジュランギおじさんよりこちらの方が好き!
時々笑いつつジワ~ンとする良い映画ですね。しいて言うなら1曲だけ踊ってほしかった(笑)
まつこさん
すごくいい作品ですよね。
大ヒット!みたいにならなかったのは、やはり俳優さんがスーパースタークラスではなかったからなのでしょうか…
でも、スーパースターじゃない俳優さんがやっているからこそ、
変な先入観もなくすっと物語に入り込めるのかもしれません。