パキスタンあれこれ

カシミール問題 インドとパキスタン、終わらない紛争

カシミール問題 終わらない争い

こんにちは、スズケーです。

先日、インドとパキスタンの対立の歴史についてまとめましたが、
その時記載しきれなかった、カシミール問題についてのまとめです。

カシミールは、私が世界で一番好きな場所です。
フンザも好きなんですが、カシミールが好きです。

だからあそこに住む人たちが、いつも、いつまでも辛い思いをするのは本当に悲しい。
今起きているインドとパキスタンの争いも、早くおさまる事を祈っています。
カシミールの人のために。

 

カシミール問題

カシミール問題は、インドとパキスタンという二つの国の間でカシミールという領土をめぐる問題のことです。

インドとパキスタンが1947年にイギリスより分離独立する際、
ヒンドゥーの藩王が治めるが住民のほとんどがムスリムであると言うカシミールはインドとパキスタン、どちらに帰属するかの意向をなかなか明らかにしませんでした。
この事がきっかけとなり、インドとパキスタンでカシミールを奪い合う争いが始まります。

独立分離に関してやインドとパキスタンの対立に関してはこちらの記事を参考に。

インドとパキスタン 対立の歴史
インドとパキスタン 対立の歴史インドとパキスタン、イスラームとヒンドゥーの対立や分離独立についての歴史のまとめ。 2019年に起きたテロや、これまでの印パ戦争やカシミールを巡る争い、その原因についてなど。...

住民投票の要求から、武力闘争へ

最初は単なるカシミールをめぐるインドとパキスタンの領土の奪い合いだったこの問題も、時間の経過とともに様々な要因の影響を受け、複雑に変化しています。

独立してからこれまでの間、インドとパキスタンは3度にわたって戦争をしています。
1度目と2度目は直接カシミールを奪い合って。
3度目はバングラデシュの独立戦争ですが、この時もカシミールは戦場になりました。

この他にもLoC(実行支配線)周辺で、小さな小競り合いから開戦につながりかねない深刻な対立まで、争いはたびたび起きていて、カシミールでは紛争は日常的と隣り合わせのものと言えます。

1949年に第一次印パ戦争が国連の調停を受けて停戦した際、国連はカシミールの帰属を決するための住民投票の実施を勧告。インド・パキスタン両国はこの調停案を受け入れましたが、今日まで住民投票は行なわれていません。
カシミールの住民も、住民投票が行われる事を望み、根気づよく要求を続けました。

そんな中で、インド政府によるカシミールへの政策が徐々に厳しくなっていきます。
これまでジャンムー・カシミール州はインドの1つの州であるものの、インドの立法を州議会で審議する権利を認められているなどの特別な地位にありました。
インド政府はこういったカシミールの権限をひとつひとつゆっくりとはぎとっていき、1980年代にはカシミール州首相までもがインドの中央政府に協力的な姿勢を示すようになります。

ずっと望み、訴え続けてきた住民投票は実施されないまま。
自分たちの暮らす場所がどうなるのかと言うことに、自分たちの意見が反映されていない。
厳しくなるインド政府の締め付けを受け入れるしかない。

こうした事が原因で、カシミールの人々の不満が膨らみ、もともとは住民投票を要求するだけの穏健なものだった活動から、カシミール人自身による武力闘争が始まりました。

武力闘争が始まった要因には、アフガニスタンで対ソ連戦争に従事していたイスラーム武装勢力が移動してきたこと、武装勢力に対してパキスタンが支援をしたことなどが指摘されています。

カシミール解放の戦いとイスラームのための戦い

もともとはカシミール人が「カシミールの解放・自由を」という事で始まった闘争でしたが、支援と称して海外からのイスラーム武力勢力入ってくるようになると、闘争の目的が少しづつ「イスラームのための戦い」へと変容していきます。

今も、昔からカシミールの解放を願う人々は「カシミールにアザード(自由)を」と訴えますが、イスラーム武力勢力は「ジハードだ」と主張をしています。
カシミールの人々の目的や願いと、イスラーム武力勢力の思惑は完全に合致をしてはいません。

それでもカシミールの人々がある程度イスラーム武力勢力の介入を許容し、また、武力勢力へと走る若者がいるのは、
こういった組織がインド政府では手の回らない、貧しい地域や紛争で家族を失った人々に経済支援を行ったり、兵士としての就職口を用意したりしていることがあげられます。

2005年にパキスタン側のアザード・カシミールで起きた地震の際にいち早く救援の手を差し伸べたのは、パキスタン政府ではなくその政府からテロ組織として指定を受けているラシュカレ・タイバの関連組織でした。
海外NGOがサポートをしにくいような山深い場所や、封建的な地域でも、彼らが救援活動を行う事はそう難しい事ではありませんでした。

また、インド政府がカシミールの混乱を「治安問題」「パキスタンによるカシミール分離工作」で一蹴し、
カシミールの社会経済的な要求や中央政府からの疎外への不満の声などに耳を傾けず、根本的な問題解決に取り組もうとしない事もカシミールの人々を大きく失望させ、
人々が武力勢力に頼る一因を作っています。

インドでもパキスタンでも、政府よりもこういった武装勢力の方が、どんな理由であろうと、住民にとって身近であり、いざと言う時にフォローをしてくれる存在となっているのです。

 

この小説はカシミールで起きた実際の事件を元に書かれたものですが、カシミールが外から来たテロリストにむしばまれていく様子がよくわかります。

インドとパキスタン、妥協できない理由

両国がカシミールについて譲歩できないのは、この問題がカシミールだけでなく国全体の統合や理念にも関わってくる事だからです。

インドはヒンドゥーが優性ではあるものの、多様な宗教・文化が混在して在る国です。
例えばカシミールがイスラームを主とする地域だからといってパキスタンへの帰属を認めれば、国内に存在するその他のマイノリティの民族・文化を持つ人々を刺激する事になり、カシミールだけでなく、国全体がバラバラになってしまう可能性も出てきます。

分離独立の際に「ムスリムにはムスリムの国家を」と提唱して誕生したパキスタンは、
カシミールがムスリムが多数派を占める地域である以上、カシミールはムスリム国家であるパキスタンに帰属すべきであると主張しています。
パキスタンと言う国の成り立ちに関わってくる問題である、と考えているのです。

カシミール問題に関して、
インド側は二国間の問題であるとして第三国の調停や介入を好まず、
対するパキスタン側は国際社会の介入を求めてきました。
ここら辺からして意見が全くかみ合っていません。

インドとしては、第三国の介入を認めてカシミールでの住民投票が実施される事になれば
カシミールがインドに帰属する可能性が低いであろう事を恐れているのだと思われます。

パキスタンの公式見解では、旧カシミール藩王領は現在も帰属未定の係争地域であり、住民投票がおこなわれて帰属が決するまで、パキスタンが暫定的に管理下においているにすぎないとされていて、
今もアザード・カシミール州とギルギット・バルティスタン州は、パキスタン国政への選挙権を持たない、納税義務がないなど特殊な立場におかれています。

スズケー
スズケー
これに関しては、ジャンムー・カシミールの権利を徐々に奪っていったインドよりも、パキスタンの方が誠意あるかもしれません。

終わらない紛争と圧政、カシミールの日常

ジャンムー・カシミールは、ほんとうに至るところに警察や軍のチェックポストがあり、あちこちに警官や軍人が立っています。
そんほとんどが、カシミール以外の地域出身の人で、ムスリムではない人々も多いです。

カシミールの人たちからすると、自分たちは住民投票の約束も反古にされ、インド政府から疎外され、不当な扱いを受けていますが
警官や軍人は「インドの中央政府に優遇されている人たち」です。
当然彼らを信用しないし、反感を持っています。

スズケー
スズケー
ここらへん、分離独立前のインドで、ムスリムがヒンドゥーの人々に反感を持つようになったのと同じような構図だな…と思います。

インドの警官や軍人はどこの地域でもすぐに手を上げる人も割と見かけるのですが、カシミールではその数が多いせいなのか、住民に良く思われていない事が面白くないせいなのか、それともムスリムへの嫌悪感があるのか。
カシミールでは他の地域以上に、警官や軍人がほんの少しの事で住民を殴ったりしているのをよく見かけます。

夕方、果物を売る荷台を押しながら家路につくおじいさん。おじいさんが進むのが遅いと言って棒で殴りながら大声で怒鳴る警察官。
驚いて「なんで殴るの!」と叫んだら、周りの人に止められました。
「止めたら君も何されるかわからないし、彼は怒ってさらにたくさんの人に当たり散らすようになるよ」と。

カシミールはインドのものだと言うくせに、カシミール人は同じインド人、自分たちと対等であるって認めてもらえてないみたいに私には見えます。

こういうのもカシミールではよく見る光景です。

ヒンドゥー教徒によるムスリムの少女のレイプ事件、
インド軍によるテロリスト討伐という名目の一方的な家宅捜査、
インド軍の作戦に巻き込まれて死ぬカシミールの人々。

ほとんどが、カシミールのムスリムと、そうでないインド人との間に起きています。

これらの問題に対し、インド政府は誠実で明確な対応をとってきませんでした。
カシミールの人々がインド政府に反感を持つのも仕方がないことだと思います。

3月4日追記

LOCでインドとパキスタンの攻撃の応酬が続く中、
3月3日に、インド側カシミールではインド軍が地元の少女に暴力を振るい、それに抗議した男性らが反インドを訴えながら治安部隊と衝突しました。
こういうことがくり返し起こるから、カシミールの人の心はインド政府から離れていきます。

このニュースはインドでもカシミールのメディアでしか報道されていません。

インドか、パキスタンか

2018年にはインドでカシミール紛争による被害者が急増しました。
死亡者の数、500人以上。
治安部隊や過激派の戦闘員も含まれますが、被害者の多くは民間人です。

カシミール テロと暴力と
カシミール テロと暴力と、インドとパキスタンインド政府がパキスタンが関与していると主張する、カシミールで起きたテロについて。紛争の中で生活するカシミールの住民のこと。...

インド政府が、カシミールの人々の声に真剣に耳を傾け、誠意ある対応をしない限り、カシミールの人々は心からインド政府を受け入れる事はないし、
インド国内でのカシミール問題が解決に向けて大きく動く事もないだろうと思います。

インド側のカシミールでは、インドにもパキスタンにも属さずに独立を求める声も多いですが、
「カシミールはパキスタンに属する方がいいと思う」と言う人も多いです。

でも実際、パキスタン側の旧カシミール藩王国であるアザード・カシミールやギルギットバルティスタンも、今のパキスタンの中央政府から、パンジャーブ州などと同じ扱いを受けているとは言い難く、
パキスタンに属することになったところで、今度はパキスタン政府に失望するだけなのかもしれません。

インドにしろパキスタンにしろ、そして日本を含む他の国でも、
中央から離れた遠い地域や異なる文化を持つ地域は、政治から疎外されがちです。

2019年のインド・パキスタン紛争

2月14日にカシミールで起きた治安部隊への自爆テロをきっかけに再度インドとパキスタンの関係が悪化しました。

それに関連して、インド国内ではカシミールの人々がいわれのない嫌がらせを受けたり暴力を振るわれる事件が多発しました。

インドは多民族・多宗教の融合国家だと謳っていても、やはりマイノリティに対する扱いは平等ではないんでしょう。
何かあればこうやってすぐに標的となります。

 

今回のテロの後、「インドがパキスタンにとるべき行動は?」というインド国内の世論調査がおこなわれましたが、戦争を求める声がとても多くありました。

「インドがパキスタンにとるべき行動は?」世論調査の結果

  • カシミールへの攻撃 23%、
  • 織指導者の暗殺 18%、
  • 印パ戦争 36%、
  • 外交・経済制裁 15%、
  • 不明 8%

引用元:36 per cent want war with Pakistan for Pulwama revenge, PM Modi best to tackle terror: PSE Poll

みんな「戦争が起きても自分たちの生活には関係ない」って思ってるからそんなこと言えるんでしょう。
もしかしたら戦争になるのはカシミールだけって思ってるのかも。
またカシミールにだけ犠牲を強いるつもりなのか?

国力でいえばインドがパキスタンに負けるはずないと考えているのかもしれませんが、小さな日本が大国を敗った例だってあります。
戦争になったらインドもパキスタンも安全場所なんてなくなるし、必ず犠牲は出ます。
国民にはメリットもあまりないはず。

パキスタンの友人には、大丈夫かとメールをしたら
「この時期に騒ぐのはインドの選挙前のお決まりでしょ?」って返事と一緒に
キメ顔の自撮り写真が来ました。
実際にカシミールでは被害が出ているのに、気にならないのか…

戦争が起きても自分は関係ないと考える人々の想像力のなさが悲しい。

結局インドでもパキスタンでも、
不便な思いをするのも怖い思いをするのも、被害に遭うのもカシミールの人だけ。
他のみんなは自分には関係ないって思ってる。

 

今回もカシミールのLoC(実行支配線)周辺で空爆や交戦があり、民間人が亡くななっています。

パキスタン側アザード・カシミールでは、国境沿いの村に住む人々が家を捨て、避難を始めています。公立の学校も全て閉鎖しました。
テロも軍も関係のない善良な市民が巻き込まれる。これが戦争。
そしてこれがカシミール。

カシミール問題のこれから

インドとパキスタン、両国の関係は常に一進一退です。
関係が和平方向に向かう政策がとられたと思ったら、カシミールをめぐる意見の相違や過激派によるテロ行為などで交渉が行き詰まると言う事が、ここ何年もくり返されています。

今の緊迫した状態も、私達からすれば「戦争になるのではないか」と不安に感じる程のものですが、
インドやパキスタンにとっては、そしてカシミールの人々にとっては「いくつもあった紛争の一つ」にしかすぎないのかもしれません。

でもだからこそ、カシミールの人々がこういった状況を受け入れ続けなければいけないのが悲しいし、変わってほしいと思います。

これまでにカシミール問題の解決案として、

  • 国連の提案に従って住民投票を行って帰属を決める
  • 現在の実行支配線を国境とし、分割統治を行う
  • 一つの国としてカシミールが独立する
  • 住民が主権を持つインドとパキスタンの共同管理地域とする

このような案が考えられていますが、
いずれを実行するにも、まだまだ問題が山積みとなっています。

インド・パキスタンとも、イスラーム武力勢力を政府が鎮圧したりコントロールできない現在の状態では、どの案を採ったとしても、必ずまたテロなどが起きるでしょう。

 

平常時、国境付近ではインドの人、パキスタンの人が往来をし、そして彼らは国や宗教の違いを気にせず、普通に交流をしています。
もともとは同じ一つの国の人間同士。
争いあっているのは、単に国家同士だけなのです。
隣り合う国同士、平和に暮らす事はできるはず。

両国間は長きに渡ってカシミールをめぐる対話と交渉を続けてきましたが、結局事態はほとんど変わっていません。

今回のインドとパキスタンの緊張で、核を持つこの二国の対立は、二国間だけのものでなく、他国を巻き込む争いであると言うことを、国際社会は十分に実感したはずです。

国際社会はカシミール問題の解決に目を向け、
インドやパキスタンと、そしてカシミールの人々と共に新しい問題解決の可能性を模索していくべきではないか、と思います。

 

今回の争いがこれ以上大きくならずに解決しますように。
カシミールが穏やかな場所に戻りますように。

カシミール
2019年8月14日追記

残念ながら、2019年8月5日にインド議会はジャンムー・カシミール州の地位を見直し、カシミールに特権を付与する憲法370条を廃止すると発表。
8月6日には同州を連邦直轄領に組み込む法案を可決しました。

カシミールの人々には何の意思確認も相談もなく、一方的に、彼らの権利を剥奪しました。
インド政府は、カシミールをジワジワと殺す。

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フンザ出身のパキスタン人と国際結婚しています。 デザイナーとライターとアーティスト、時々通訳をしつつ、 投資もやってます。 お金稼いでパキスタンと日本とインドと、好きに行ったり来たりしたい。
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POSTED COMMENT

  1. アバター あつこ より:

    こんにちは、とても読み安く、カシミール問題がよく理解できました。どうもありがとうございます。
    カシミールって本当に美しい場所らしいですね。イギリスにもカシミール出身の人がたくさん移民してきています。地上の天国とうたわれた場所に平和が来るようにと祈らずにいられません。
    インド人の世論調査、半数以上が武力行使賛成っていうのも、なかなか残念な結果ですね。核保有国だっていうのに、深刻さが欠けているというか。感情論先行なんでしょうね。インドから見たら、パキスタンとの競争関係において優位に立つことが優先課題であって、カシミールの人たちの安全や幸せは二の次なのかも、と感じました。
    一方でパキスタン人のうちの夫は、カシミールがパキスタンに帰属しても、パキスタンという国自体が国際社会において優位な位置を占めていないし、政府は汚職がひどいし、カシミールの人たちが幸せになるかはわからないよねえと思ってるみたいです。
    本当にどっちもどっち。難しい問題ですね。。

    • スズケー スズケー より:

      あつこさん

      インドだけでなく、パキスタンにとっても、
      カシミールで起きている争いは自分の生活とは関係のない別世界の事であって
      今回の事も多くの人が楽観視しています。
      カシミールの友人に
      「インド人もパキスタン人も、我々カシミール人がどれだけ死のうが関係ないと思っている」と言われました。

      一度カシミール、特にインド側に行ってみられるといいです。
      自分の目で見ると、色々ショックを受けます。

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