こんにちは、スズケーです。
フンザはパキスタン国内で最も識字率が高い地域で、特に女性の教育にもとても力を入れています。
これはフンザに多く住む、イスラム教イスマイリー派の宗教的最高指導者・アガ・カーンの方針によるものです。
フンザを訪れた方は、ガイドや地元の人から
「フンザはパキスタンの他の地域と異なり、女性も教育を受けているし自由である。」
といった話を聞いたこともあるかもしれません。
確かにアガ・カーンの指導するイスマイリー派は、
女性の社会進出を推奨し、女性の地位向上のための様々な活動を行っています。
でも本当に、フンザに住む女性達は、
パキスタンの他の地域に住む女性達と異なり自由なのか?ということについて。
自殺する女性の数が国内平均の2.5倍
昔のBBCニュースを見ていたら、こんなニュースを見つけました。
フンザのあるギルギット・バルティスタン州では、自殺する女性の数が国内平均の2.5倍なんだそうです。
年間平均20人。
鬱などが主な要因だそうです。
この地域にはカウンセリングセンターがなく、精神科医もいない。
家庭内暴力があったりしても警察は相手にしてくれず、
女性が助けを求めていける場所がない。
動画の中でも説明されていますが、
この地域では、女性の教育や働くことが推奨されていますが、
実際、大学まで卒業したとしても女性が働ける場所というのはそう多くはありません。
女性の学歴がどれだけ高くても、家の中で一番偉いのは男性という考えは根強く残っています。
伝統と革新の両立
建前と本音 旅行者向けの言葉と現実の差
前述した通り、アガ・カーンの指導するイスマイリー派は、
女性が教育を受けること・女性の社会進出を推奨しています。
でもだからといって、それがすぐに女性達の地位向上につながるというわけではありません。
フンザを訪れる旅行者は、パキスタンの他の地域同様、フンザの「男性」と話をする機会が多いかと思います。
その際にフンザや、イスマイリー派の文化に関する話になると彼らが語るのはこれ。
「イスマイリー派は、イスラム教の他の宗派と違う、モダンな宗派だ。
女性がショールで髪を隠して歩く必要はないし、学校へ行き、卒業すれば仕事だってする。」
今でこそフンザでも、ドゥパタ(ショール)を頭に被せず外を歩いている女性を見かけるようになったし、女性がやっているお店も増えたし、車を運転する女性もいます。
でも、ほんの数年前までは、実際に女性がショールをかぶらずに出かければ、
陰口を言われたり、家族に「お前の家の娘は躾がなってない」と告げ口されたりしていました。
でも、女性達がショールで髪を被って歩くのがフンザの習慣・文化であり、男性達もそれが好ましいと思っているのならば、なぜ旅行者には口先だけの話を語るのか。
男性が「旅行者向けのタテマエ」と「地元女性向けのホンネ」を使い分けているのを聞くたびに、すごく嫌な気分になりました。
自分たちの文化に誇りを持っているのならば、もっと堂々と本当のことを話したらいいのに。
革新を妨げる古いコミュニティ意識
「男性の言うモダンなイスマイリー派とは、男性達の自由・解放が中心で
女性達は根本はまだ、イスラームとフンザの古くからの文化に従いながら生きなければならない。」
これは、フンザの女性達の言葉です。
確かにフンザでは、例えば服装の自由、結婚の自由は、未だ男性だけのものであり、
女性達はジーンズを履きたいと思っても、外国人や他の宗派の男性と結婚をしたいと思っても、父や兄が許してくれないと、大半が諦めざるをえません。
女性の社会進出に関しても同様。
大学で学び、手に職を持って働くことを夢見ている女性もいますが、
フンザと言う山に囲まれた狭いエリアだけでは、職を求める全ての女性達に働く場所を与えるのは難しく、
かといって、女性が職を求めて街に出て行くのを快く送り出す家はまだまだ少数派です。
せっかく高い学歴と優れた技術を持っていても、それを持て余している女性が大勢います。
運良く職を見つけ、外に出て働いている女性達にも
「私も外で働くようになったのに、家の男性は家事を全く手伝ってくれない。
女性が社会進出するべきだと言っても、これでは女性の負担が増えただけなのでは。」
などという不満があるようです。
イスマイリーの指導者がどんなに革新的な考えを推奨しても、
外の世界をあまり知らない人々の凝り固まった考えを変えるには長い時間がかかる。
数年前から急速に、いろんなことが変わってきて、
女性に対する考えも緩やかに変化されつつありますが、ここら辺は「その家の男性がどう考えているか」によって大きく左右されています。
やっぱり基本は男性が基準です。
フンザの女性が、パキスタンの他の地域の女性と比べて自由かどうかと聞かれれば、私はそうは思わない。
日本同様、やっぱり都会の女性の方が、自由気ままに暮らしている印象です。
どちらが良い、悪いということは置いといて、私個人の感覚としては
男性らが「女性もドゥパタをかぶらなくていい、自由に外を歩ける」と豪語しているフンザより
イスラマバードやカラチ、ラワルピンディー、ラホールなどの大都市の方が
働いたりして社会に関わっている女性が多いし、
大学なんかに行けば女の子達はフツーに洋服着てる子もいたりなんかして、
やはり実際には、田舎のフンザよりもパキスタンの都心部の方が、
女性は色んな意味で「フリー」、日本に近い感覚で生活しているな、と感じます。
自分たちの属するコミュニティや、その文化を大切にするのは尊いことだと思いますが、
「強すぎるコミュニティ意識」「閉ざされたコミュニティ」は、時に不便で抑圧や差別の原因にもなるもの。
以前紹介した「HVA VIL FOLK SI」という映画でも、パキスタン人コミュニティ内で足並みを揃えたがる様子や、彼らの文化からはみ出す行為をした際にコミュニティから無言で非難の目を向けられる様子が描かれています。
伝統文化を大切にすることと、新しい何かを始めることを両立するのはとても難しい。
自由と責任
全ての女性が、今の状態に不満を持っていたり、もっと自由が欲しいと思っているかと言うと、そうではありません。
現状がベストと思っている女性も多数います。
フンザやイスラーム圏だけでなく、日本も含め、昔はほとんどの国・宗教の考え方が、
男性は外で働くもの・女性は家を守るものでした。
男と女は体の造りや体力、ものの考え方が違うので、
その時代や場所での「公平でベストな役割」を考えると、必然的にそうなってきます。
今は男女が同じ職場で働き、同じ仕事をこなすのも普通の事ですが、
それは時代が変わり、働き方も変わり、
男女の体力の差などがあまり関係のない仕事がたくさんあるからこそできることです。
昔からある男女別の役割分担通りに生活することは、ある意味とても楽なことです。
全ての責任は男性にあり、女性たちは難しいことを考える必要がありません。
ただ黙々と家の中の仕事、毎日のルーティーンワークをこなせばいいだけ。
選択権がなければ迷うこともありません。ストレスフリーに暮らせます。
その生活しか知らず、それを当たり前と思っていれば、変えたいと思うことすらありません。
仕事の自由、結婚の自由、生活の自由。
そういうものを手に入れれば、それと同時に責任も伴ってきます。
仕事で失敗したとき。結婚相手を選び間違ってしまったとき。
そういうのも全て自分の責任。自分で対処しなければいけません。
自由には責任がつきものであるということ。
フンザをはじめ、今のパキスタンの女性がそれを理解しているかと言うと、ちょっと微妙なところではないかと思います。
彼女達はテレビや外国人から、自由のいいところだけしか見ていない。
今の状態で急に女性が自由を手に入れたって、好きなことをやるだけで責任について考えないままでは、生活システムはめちゃくちゃになってしまうでしょう。
自由を得るということは、責任が課せられることであり、その点で不自由にもなる。
こういうことは口で説明して理解できるものでもないですし、
これもゆっくりゆっくり、女性達が色んな経験の中で知っていくしかないと思います。
やっぱり、変化には時間がかかります。
私には無理
フンザの、パキスタンの女性のような生活が私にできるかと言うと…
無理でした。
フンザで結婚してから1週間くらい、
旦那の家で、弟家族や妹らと生活していましたが
男達が仕事じゃなくても好き勝手に外に遊びに行くのに、
女は基本的に家に残っているって言うのがまず退屈すぎて無理…!
朝起きて、ご飯を作ったり掃除をしたり家畜の世話をしたりと家のことをして、
出かけるのは徒歩2〜3分の親戚の家くらい。
空いてる時間は女同士でお喋りしたり、刺繍をするだけ。
まぁ穏やかでのんびりした日々ではあるのでしょうけれど、
いつでも自分の意志で
好きな時に好きなことをやって、好きな人に会って好きなところに出かける、
そういう生活をしてきた日本人の私には
あまりに単調な日々すぎて、退屈で死ぬ!
とあっという間にギブアップし、途中で脱走しました。
その後はずっと、パキスタンでは
- 日本人だからあちこち一人で好き勝手できる
- 現地の嫁なので、現地の女性同様に気遣われて大事にされる
- 日本人の嫁なので家事とかを押し付けられることはない
(誰も私にできると思っていないし期待されていない)
という、日本の女とパキスタンの女のいいとこ取りをさせてもらっています。
私がパキスタン人と結婚してパキスタンに住んだりしても
パキスタン嫌だってならなかったのは、いいとこ取りだけをさせてもらってきたからだと思います。
そもそも旦那がそういう人なら結婚しなかったですけど。
女性にとってだけでなく、何がベストな形なのかは、
その人、その場所、その時代によて変わってくるし、
私が良い悪いを判断できるものではないけれど。
自分の意志で自分の好きな物を選べる自由と責任を与えられていることは、
私自身には合っているし、それはとても幸運だったと思っています。
これは誰にでも普通に与えられているものではないんだよってことを忘れずに、
自由の意味をよく考えて過ごしていきたいなと思います。
フンザでは、女性の自立支援を応援するNGOがあり、
そこで技術やビジネスを学んだ女性たちが運営しているお店なんかもあったりします。
フンザ旅行に行き、お土産を買おうと思ったら、そういうお店もぜひのぞいてみてください。
フンザってどんなところ?ってより興味を持った方や
フンザに行きたいなと思った方は、こちらの記事を参考にどうぞ。
お読みいただきありがとうございました!
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メダカちゃんだ、懐かしい~。すずけーさんも楽しそうだいい写真だね。(笑)フンザの風は気持ちいいから。
ひろさん
動かしてないけどね(笑)
とめてあるバイクに勝手にまたがって写真撮っただけ…